・・・ぐしゃッと人間の肉体が××××音が薪の崩れ落ちる音にまじった。「あ、あぶない、あぶない。薪がひとりでに崩れちゃったよ」 三人は、大声をあげて人に聞えるように叫んだ。 それが、メーデーに於ける彼等の、せめてもの心慰めだった。・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・積った正月の雪が、竹藪の竹を重く辷って崩れ落ちる。その音を聴く者も閉めた家の中にはいない。煤で光るたるきの下に大きな炉が一つ切ってあって、その炉の灰ばかりが、閉め切った雨戸の節穴からさし込む日光の温みにつれ、秋の末らしく湿り、また春の始めら・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・つむじのように捲き上った感情の柱は、一旋回して方向をかえ、娘と母との間に雪崩れ落ちるのが常だったが、そういうとき母は、娘が女の子のくせに女親の味方にならないということを泣いておこった。そして父に向ってもって行った情熱のかえす怒濤で娘を洗うの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
出典:青空文庫