・・・ 或左傾主義者 彼は最左翼の更に左翼に位していた。従って最左翼をも軽蔑していた。 無意識 我我の性格上の特色は、――少くとも最も著しい特色は我我の意識を超越している。 矜誇 我我の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・とはいって来た。左翼くずれの同盟記者で大阪の同人雑誌にも関係している海老原という文学青年だったが、白い背広に蝶ネクタイというきちんとした服装は崩したことはなく、「ダイス」のマダムをねらっているらしかった。 私を見ると、顎を上げて黙礼し、・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 逃げて行くパルチザンの姿は、牛乳色の靄に遮られて見えなかった。彼等はそれを、ねらいもきめず、いいかげんに射撃した。 左翼の疎らな森のはずれには、栗本の属している一隊が進んでいた。兵士達は、「止れ!」の号令がきこえてくると、銃をかた・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・それは名の知れている左翼の人で、最近どうして書かなくなったのだろうと思っていた人だった。ところが、此処にいたのだ。この人も! そう思うと、俺は何んだか急に気が強くなるのを感じた。 それから「仮調所」に連れて行かれて、裸かにされた。チンポ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ やがて夢から覚めました。左翼思想が、そのころの学生を興奮させ、学生たちの顔が颯っと蒼白になるほど緊張していました。少年は上京して大学へはいり、けれども学校の講義には、一度も出席せず、雨の日も、お天気の日も、色のさめたレインコオト着て、・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・あなたが、瀬戸内海の故郷から、親にも無断で東京へ飛び出して来て、御両親は勿論、親戚の人ことごとくが、あなたに愛想づかしをしている事、お酒を飲む事、展覧会に、いちども出品していない事、左翼らしいという事、美術学校を卒業しているかどうか怪しいと・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・万引にも三分の理、変質の左翼少女滔々と美辞麗句、という見出しでございました。恥辱は、それだけでございませんでした。近所の人たちは、うろうろ私の家のまわりを歩いて、私もはじめは、それがなんの意味かわかりませんでしたが、みんな私の様を覗きに来て・・・ 太宰治 「燈籠」
・・・で照らせば妙なブラッシの幽霊などは忽然と消滅するであろう。「心境の変化」で左翼が右翼にまた右翼が左翼に「転向」するのも、畢竟は思想のニコルが直角だけ回ったようなものかもしれない。使徒ポールの改宗なども同様な例であろう。耶蘇の幽霊に会ってニコ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 一九二〇年代のドイツは、左翼が活躍し、ドイツ共産党も公然と存在していた時代であった。その時代に育ったエリカ・マンが民主主義の精神をもち、日に日につのるナチスの暴圧に反抗を感じたのは自然であった。エリカ・マンは、はじめ小論文や諷刺物語を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・やっつけられるのは、左翼の者ばかりだ。「あれは左翼だから」、「戦争反対者だから」と、なるたけ遠のいて自分を権力に屈従させたおびただしい人々が、こんにちどれほど特別にいい生活をしているでしょう。 多くの人は、つのめだった世相につかれて生活・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫