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・・・ 一昨年の夏、露国より帰航の途中で物故した長谷川二葉亭を、朝野挙って哀悼した所であった、杉村楚人冠は私に戯れて、「君も先年米国への往きか帰りかに船の中ででも死んだら偉いもんだったがなア」と言った。彼れの言は戯言である、左れど実際私として・・・
幸徳秋水
「死生」
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・・・ 彼女は、マニラの生産品を積んで、三池へ向って、帰航の途についた。 水夫の一人が、出帆すると間もなく、ひどく苦しみ始めた。 赤熱しない許りに焼けた、鉄デッキと、直ぐ側で熔鉱炉の蓋でも明けられたような、太陽の直射とに、「又当てられ・・・
葉山嘉樹
「労働者の居ない船」