・・・ ――今持っている旭日章のほかに、彼は年金のついている金鵄勲章を貰うことになる。俸給以外に、三百円か五百円、遊んでいても金が這入ってくることになるのだ。――功四級だろうか、それとも五級かな。四級だと五百円だ。それから勲功によって中佐に抜・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・「一時賜金が百三十円に、年金が四十八円ずつでござえますがね。参謀本部へ、一時金を受けに行くと、そこにいた掛の方が、『大瀬晴二郎の父親の吉兵衛と云うのあお前か』と云うんです。へえ、さようでござえんすと申しあげると、晴二郎は内地で死んだ・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・なおこの上に望むところは、天下の学者を撰びて、これに特別の栄誉と年金とをあたえて、その好むところの学芸を脩めしむることなり。近年、西洋において学芸の進歩はことに迅速にして、物理の発明に富むのみならず、その発明したるものを、人事の実際に施して・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・これらのひとびとは国民健康保険、養老年金、傷害保険、その他一年、二ヵ月の休暇や、いろいろな条件をもっています。お母さんが病気をしたり姙娠した場合は、働いている人の妻であり、勤労者の妻である、組合員の妻であるということで、組合から地区の病院、・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・もう三十五年もこの煙草工場で働いている。臨月まで働いていて工場の仕事台の下にぶっ倒れ、そのままそこへ赤坊を生んだことさえある。もう年金を貰って楽に暮せる年だが、ソヴェトの世の中になって今こそやっと機械は働く者の仕合わせのためにまわるようにな・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・十五ヵ年間以上つとめると一時金なら二千円以上 年金なら一時千円で以下毎年金が下りるので、おとなしい専一。 娯楽設備一年二回観劇。改造さえよめぬ。労救に関係出来ぬ。横浜ドック 従業員二千人。ギマン政策として日給三円以上は・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・いつになったら日本の労働者が、養老年金のとれる社会をつくるだろうと思わずにいられまい。そしてアサの時代は婦人労働者が未組織だったのだということを考え、同時に、現在は組織されていてもまだめいめいの個人生活の苦痛は、個人的な解決にまかされている・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・時評の中で佐藤氏は、帝国芸術院が年金をきめていないことをあげ、芸術家の経済的窮乏が芸術家と政府とを惧しめる結果になることを惧れているけれども、一個の芸術家が生ける屍として現れるのは、あながち経済的窮乏のみによらないことを教えられるのである。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫