・・・ 然しこの悲しみがお前たちと私とにどれ程の強みであるかをお前たちはまだ知るまい。私たちはこの損失のお蔭で生活に一段と深入りしたのだ。私共の根はいくらかでも大地に延びたのだ。人生を生きる以上人生に深入りしないものは災いである。 同時に・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ほとんど黄金を透明にしたような色だ。強みがあって輝きがあってそうして色がある。その色が目に見えるほど活きた色で少しも固定しておらぬ。一度は強く輝いてだんだんに薄くなる。木の葉の形も小鳥の形もはっきり映るようになると、きわめて落ちついた静かな・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・わたしいつもこんな時は、そんなにしているのがお前さんの強みだと思ったわ。だけれど本当はそうじゃないかも知れないわ。お前さんにはなんにもいうことがないのかも知れないわ。お前さんはなんにも考えてはいないのかも知れないわ。わたしも・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・これは現在の目的とはなんの関係なしに作られたものであるから、自分の勝手がきかないところに強みがある。これを採用するとした上で山名の読み方が問題となるが、これは「大日本地名辞書」により、そのほかには小川氏著「日本地図帳地名索引」、また「言泉」・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・道具よろしく、女子大学出身の細君が鼠色になったパクパクな足袋をはいて、夫の不品行を責め罵るなぞはちょっと輸入的ノラらしくて面白いかも知れぬが、しかし見た処の外観からして如何にも真底からノラらしい深みと強みを見せようというには、やはり髪の毛を・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・それには苟くも想像力にうぶな、原始的な性能を賦し、新しい活動の強みを与えるような偶然の機会があったら、それを善用しなくてはならないと云うのである。 しかるにこのイソダンの消印のある手紙は、幸にもその暗示的作用を有する機会の一つであった。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
武者小路さんの「後に来る者に」の中に動かされない強みと云う事の書いてあったのを覚えて居ます。 動かされないと云う事を今の私は或る意味で非常にのぞんで居る事です。 私の狭い智や愛、まだ年の工合で、時々は自分の恐れを感・・・ 宮本百合子 「動かされないと云う事」
・・・ソヴェト労農通信員の強みは、日常の政治・文化戦線における彼等の建設的実践力だ。単に書くより先に、行うところに彼等の異常な文化建設力がある。 五ヵ年計画がはじまってからの彼等の活動は目覚ましいものがある。一九二九年の秋から三〇年の種蒔時に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 此等に気焔を上げてしまいましたが、とにかく、此の積極的という事は、万事に就て、こちらの婦人の強みになって居ると思います。良人の僅かな月給を、どうしたら一銭少く使おうかと心配するより、先ず、自分が幾何補助する事が出来るかを考えます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ この民衆の強みはСССРの底石だ。 骨格逞しい丈夫な民衆の上にあらゆる不如意、不潔、消耗がある。然し彼等はその底をくぐって生きぬくであろう。 民衆のこの生活力の上に立つ限りСССРはアメリカの僧侶が希望する以上に強靭な存在であ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫