・・・黄の平生密輸入者たちに黄老爺と呼ばれていた話、又湘譚の或商人から三千元を強奪した話、又腿に弾丸を受けた樊阿七と言う副頭目を肩に蘆林譚を泳ぎ越した話、又岳州の或山道に十二人の歩兵を射倒した話、――譚は殆ど黄六一を崇拝しているのかと思う位、熱心・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・人をだましていい生活をするほど悪がしこくないから、だんだん追いつめられて、あんなばかげたことをして、二円、三円を強奪して、そうして五年も十年も牢へはいっていなければいけない、はははは、おかしい、おかしい、なんてこった、ああ、ばかばかしいのね・・・ 太宰治 「燈籠」
・・・ついには、女中の松やの貯金まで強奪するようにさえなった。台所の隅で、松やはその事をお嬢さんの節子に訴えた。節子は自分の耳を疑った。「何を言うのよ。」かえって松やを、ぶってやりたかった。「兄さんは、そんな人じゃないわ。」「はい。」松や・・・ 太宰治 「花火」
・・・ そもそもペンクラブというものが、文筆にたずさわる人々の親睦機関から今日のように文化的により深い意味と活動とを行うようになったのは、ドイツでユダヤ系の作家、左翼作家を迫害して、ベルリン・ペンクラブを強奪してナチの宣伝に利用しようと企てたこ・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫