・・・椅子に腰かけている両足の蹠を下から木槌で急速に乱打するように感じた。多分その前に来たはずの弱い初期微動を気が付かずに直ちに主要動を感じたのだろうという気がして、それにしても妙に短週期の振動だと思っているうちにいよいよ本当の主要動が急激に襲っ・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・それは、セロの曲中に出て来る急速なアルペジオをひくのに、弦から弦と弓を手早く移動させるために手首をいろいろな角度に屈曲させる。その練習をしている際に私の先生の手首と自分の手首とでは、手首の曲がる角度の変化の範囲はほぼ同じであるが、しかしその・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・それで今にわかに人為的にこれを破壊し棄却しようとしてもそう急速には意のままにならないであろうと考えられる。これは理屈ではなくて事実なのである。 次には俳句が七五七でなくて五七五であるのはどういうわけかという疑問が起こる。和歌の上の句と同・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・八分の一の低音の次に八分の一の休止があってその次に急速に駆け上がる飾音のついた八分の一が来る。そこでペダルが終わって八分の一の休止のあとにまた同じような律動が繰り返される。 この美しい音楽の波は、私が読んでいる千年前の船戦の幻像の背景の・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・一景平均五分程度という急速なテンポで休止なしに次から次へと演ぜられる舞台や茶番や力技は、それ自身にはほとんど何の意味もないようなものでありながらともかくも観客をおしまいまであまり退屈させないで引きずって行くから不思議なものである。 昔見・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・中産階級の急速な貧困化、それにともなって起っている深刻な失業、インテリゲンツィアの経済的、精神的苦悩は、実際にあたって、恋愛や結婚問題解決の根蔕をその時代的な黒い爪でつかんでいるのである。この事実を痛切に自覚しない若者は、恐らく一人もないで・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 私たちの周囲に見る女の生活、あるいは女が社会から求められているものの内容や質も、こういう刻々の感情をはらみながら、その一年間に何と急速に推移して来たことだろう。日本の女性の真実は、家庭にあってのよい妻、よい母としての姿にあるとして、丸・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ というようなことを母にきいているうちに、年月がたつままに、その中のどれかを偶然によみはじめて、少女雑誌から急速に文学作品へ移って行った。 わたしたちの文学にふれはじめる機会が、多くの場合は偶然だ、ということについて、深く考えさせられる・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・を、過去の作品としてうしろへきつく蹴り去ることで、それを一つの跳躍台として、より急速な、うしろをふりかえることない前進をめざす状態だった。 一九三二年の春から、うちつづく検挙と投獄がはじまった。その期間に作者はしばしば一人の人間、女とし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・高度に発達した資本主義国は、そのころ急速に資本の独占化にすすんで、いわゆる合理化の結果、どこでも慢性的な大衆失業にくるしんでいた。イギリスでマクドナルドの労働党が多数をしめて労働党内閣となったのも、生活を打開しようとする大衆の要望のあらわれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
出典:青空文庫