・・・先代の御位牌に対して不敬なことをあえてした、上を恐れぬ所行として処置せられたのである。 弥五兵衛以下一同のものは寄り集まって評議した。権兵衛の所行は不埓には違いない。しかし亡父弥一右衛門はとにかく殉死者のうちに数えられている。その相続人・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・余は何者をも恐れぬぞ、余はナポレオン・ボナパルトだ」 こうしてボナパルトの知られざる夜はいつも長く明けていった。その翌日になると、彼の政務の執行力は、論理のままに異常な果断を猛々しく現すのが常であった。それは丁度、彼の猛烈な活力が昨夜の・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・私はもっとしっかりと大地を踏みしめて、あくまで浮かされることを恐れなくてはいけない。生活態度の質実はやがて製作態度をも質実にするだろう。製作態度の質実はやがて表現の簡素と充実とをもたらすだろう。 私は芸術的良心が生活態度の誠実でない人の・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫