・・・優しげな、情合の深い、旦那、お前様だ。」「いや、恥かしい、情があるの、何のと言って。墓詣りは、誰でもする。」「いや、そればかりではねえ。――知っとるだ。お前様は人間扱いに、畜類にものを言わしったろ。」「畜類に。」「おお、鷺に・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・村の人々は、その子供がいなくなってからも、雪が降って、西の山に牛女の姿が現れると、母親と、子供の情合いについて、語り合ったのでありました。「ああ、牛女の姿があんなにうすくなったもの、暖かになったはずだ。」と、しまいには、季節の移り変わり・・・ 小川未明 「牛女」
・・・あなたでも同じですけれど、こんなになると、情合はまったく本当の親子と変りませんわ」「それだのにこの夏には、あの人の話はちょっとも出ませんでしたね」「そうでしたかね。おや、そうだったかしら」「そして私の事はもうすっかりあの人に話し・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・人とも覚えずしかるを尚よく斯の如く一吐一言文をなして彼の爲永の翁を走らせ彼の式亭の叟をあざむく此の好稗史をものすることいと訝しきに似たりと雖もまた退いて考うれば単に叟の述る所の深く人情の髄を穿ちてよく情合を写せばなるべくたゞ人情の皮相を写し・・・ 著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三 「怪談牡丹灯籠」
出典:青空文庫