・・・並に、当人達も、田舎よりは情操の訓練を受ける機会が多いため、概して軽浮な中にも敏感で、よくいえば趣味よく、悪くいえば狡く打算をもって感情を整理して行くかと思われます。 田舎では女学校などというと、知識程度の低い周囲と比較して一種の別天地・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・社会の全機構がその影響の下にあり、ガムランによって代表された軍事部門の内奥さえ、その軍人気質を情操として見た場合、殆ど哲学的に洗煉されて、いくらかシュール・リアリストがかってしまっている。古い果樹の、熟しすぎた果実として、フランスの文化伝統・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・けれども、中学校の教育というものが、若い肉体と精神とを正当に知識的に導く力をもっていないばかりか、情操を高く明るく導く愛も喪っていて、ただ威嚇と形式上の秩序ばかりに拘泥して悲劇の温床となっていることに対する作者ヴェデキントのプロテストは今日・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・ 父はその青春時代の情操を頼山陽などの文章によって養われた。すなわち維新の原動力となった尊皇の情熱を、維新の当時に吹き込まれた。言いかえれば、政治の実権を武士階級の手に奪われてただ名目上の主権者に過ぎなかった皇室、その皇室に対する情熱を・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫