・・・ 辺幅を修めない、質素な人の、住居が芝の高輪にあるので、毎日病院へ通うのに、この院線を使って、お茶の水で下車して、あれから大学の所在地まで徒歩するのが習であったが、五日も七日もこう降り続くと、どこの道もまるで泥海のようであるから、勤人が・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・人々は勢い込んで乳牛の所在地へ集った。 用意はできた。この上は鉄道員の許諾を得、少しの間線路を通行させて貰わねばならぬ。自分は駅員の集合してる所に到って、かねて避難している乳牛を引上げるについてここより本所停車場までの線路の通行を許して・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ 誰にも知られぬ、このような侘びしいおしゃれは、年一年と工夫に富み、村の小学校を卒業して馬車にゆられ汽車に乗り十里はなれた県庁所在地の小都会へ、中学校の入学試験を受けるために出掛けたときの、そのときの少年の服装は、あわれに珍妙なものであ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・海城から東煙台、甘泉堡、この次の兵站部所在地は新台子といって、まだ一里くらいある。そこまで行かなければ宿るべき家もない。 行くことにして歩き出した。 疲れ切っているから難儀だが、車よりはかえっていい。胸は依然として苦しいが、どうもい・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・この大会は、フランコのファシズム政権に反対してたたかっているスペインの共和政府の所在地バレンシアに第一日の集会をひらき、のちマドリッド、バルセロナと移って、十日間つづいた。 国際ペンクラブは第十三回大会をバルセロナに第十四回大会をブェノ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
出典:青空文庫