・・・伯父さんの家にあってその手伝いをしている間に本が読みたくなった。そうしたときに本を読んでおったら、伯父さんに叱られた。この高い油を使って本を読むなどということはまことに馬鹿馬鹿しいことだといって読ませぬ。そうすると、黙っていて伯父さんの油を・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・会葬者の中には無論金之助もいたし、お仙親子も手伝いに来ていたのである。 で、葬式の済むまでは、ただワイワイと傍のやかましいのに、お光は悲しさも心細さも半ば紛らされていたのであるが、寺から還って、舅の新五郎も一まず佃の家へ帰るし、親類親内・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・なまめいているといえば、しかし、引っ越しの日に手伝いに来ていた玉子という見知らぬ女も、首筋だけ白粉をつけていて、そして浜子がしていたように浴衣の裾が短かく、どこかなまめいているように、子供心にも判りました。玉子はあと片づけがすんでも帰らぬと・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・……お君が嫁いだ後、金助は手伝い婆さんを雇って家の中を任せていたのだが、選りによって婆さんは腰が曲り、耳も遠かった。「このたびはえらい御不幸な……」 と挨拶した婆さんに抱いていた子供を預けると、お君は一張羅の小浜縮緬の羽織も脱がず、・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そして自分の無能と不心得から、無惨にも離散になっている妻子供をまとめて、謙遜な気持で継母の畠仕事の手伝いをして働こう。そして最も素朴な真実な芸術を作ろう……」などと、それからそれと楽しい空想に追われて、数日来の激しい疲労にもかかわらず、彼は・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・「俺れんちの薪を積む手伝いでもして呉れろよ。」 スパイは、三人が集ったのを、何かたくらんでいると睨んでいた。この男は、藤井先生がY村で教えていた頃の生徒だ。そのくせ、昔の先生に対してさえ、今は、官憲としての権力を振りまわして威張っていた・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ 角屋の大きな荒物屋に手伝いに行っていたお安が、兄のことから暇が出て戻ってきた。「お安や、健は何したんだ?」 母親は片方の眼からだけ涙をポロ/\出しながら、手荷物一つ持って帰ってきた娘にきいた。「キョウサントウだかって……」・・・ 小林多喜二 「争われない事実」
・・・まだ柱時計一つかかっていない炉ばたには、太郎の家で雇っているお霜婆さんのほかに、近くに住むお菊婆さんも手伝いに来てくれ、森さんの母さんまで来てわが子の世話でもするように働いていてくれた。 私は太郎と二人で部屋部屋を見て回るような時を見つ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ ウイリイはだんだんに、力の強い大きな子になって、父親の畠仕事を手伝いました。 或ときウイリイが、こやしを車につんでいますと、その中から、まっ赤にさびついた、小さな鍵が出て来ました。ウイリイはそれを母親に見せました。それは、先に乞食・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫