・・・畜生め、若い時は、一手、手裏剣も心得たぞ――とニヤニヤと笑いながら、居士が石を取って狙ったんです。小児の手からは、やや着弾距離を脱して、八方こっちへ近づいた処を、居士が三度続けて打った。二度とも沈んで、鼠の形が水面から見えなくなっては、二度・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・光る手裏剣が欲しかった。流石に、下さい。とは言い得なかった。汗でぐしょぐしょになるほど握りしめていた掌中のナイフを、力一ぱいマットに投げ捨て、脱兎の如く部屋から飛び出た。 B 尾上てるは、含羞むような笑顔と、し・・・ 太宰治 「古典風」
・・・彌次というものを、庶民的な短評の形、川柳、落首以前のものとして考えれば、その手裏剣めいた効果、意味、悉く否定してしまうことは出来ないけれども、その形そのものが、徳川時代のものであって、彌次馬ほどこわいものはなし、に通じる要素をも持っているこ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫