・・・ 女性の古い抑圧がとりさられて自分の判断で結婚の相手をえらび、また恋愛をする人間らしい自由が日本の社会にもだんだん実現してくるということは、自分で働き自分で人生の道を進んでゆく力のない昔の女が、どうせ愛情もなしに結婚するならばちょっとで・・・ 宮本百合子 「生きるための恋愛」
・・・同時に、一人の子供をピオニイルにしようとし、なし得たことによって得た経験が、亀のチャーリーの心持をプロレタリアとして、またアメリカ帝国主義の下で有色人種労働者として二重の搾取と抑圧とに闘っている日本人移民労働者としてのチャーリーの心持をどの・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・もしそういう抑圧から自分を解放して繊維の組合が自主的な企画で生産をやるようになれば、組合間の健全な物質の交換で布地の流れは本当に違ってくる。 今日新聞に出た経済安定本部の経済白書をわたしたちは、どんなこころもちでよんだだろう。あの白書の・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 作家たちは、自分たちの生きている意義として、今日、真率な情熱で、自分がかつてとり逃した覚えがあるならば、その人生的モメントをふたたび捉えなおし、抑圧されてきた人民の苦き諸経験の一つとしてしっかり社会の歴史の上につかみ、そのことで生活と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・しかし、社会問題そのものを解決して行こうとする社会的行動に対する鎮圧とか、抑圧とかいうものについては、やはり分裂したいままでの考え方をもって法律をお使いになるのじゃないでしょうか。 今日私どもが基本的人権についていう場合には第一、戦争の・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・ ヒューマニズムの提唱が総て非人間的な抑圧に抗するものとしての性質をもっているからには、文学に関して云われている社会性のことも、以上のことと全然切りはなしては考えられないのである。 作家が、作家となる最も端緒的な足どりは周囲の生活と・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・諸大名に対する密偵制度、抑圧制度は実にゆき届いていたから、分別のある諸大名は、世襲の領地を徳川から奪われないために、中傷をさけるための工夫に、自分たちの分別の最も優秀な部分を浪費した。余り賢くあること、余り英邁であること、それさえも脅威をも・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・なぜならば、人間性をそのように畸型な傴僂にした権力は、よしんば急に崩壊したとしても、けっしてそれと同じ急テンポで、人間性に加えられた抑圧の痕跡、その傴僂は癒されないものとして残されているからである。それのみか、一年の時を経た昨今、彼らは呆然・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・Il Santoあたりであらわしていた、カトリック教に同情した心持を寺院の側からの抑圧を受けて、いっそう保守的にあらわそうとして、死ぬる前に一の小説を書いた。しかしそれはカトリック主義のようになって、芸術上の品位は前の作より下がっている。な・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・私たちはこの穢ないものを恥じるゆえに、抑圧し征服し得るゆえに、安んじていていいものでしょうか。私は自分に親しい者たちの心の内に同じような穢ないものがある事を想像するのはとてもたまらない。それと同じく他の人も私の心の暗い影を想像するのは非常に・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫