・・・それで、志のある人はなんの遠慮もなく、ありとあらゆる新型式をくふうして淘汰のアレナに投げ出すほうがいいわけであろうと思われる。 こういうふうに考えて来ると、ある一人が創成した新型式をその創成者自身が唯一絶対のものであるかのごとく固執して・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・修学証書や辞令書のようなものの束ねたのを投げ出すと黴臭い塵が小さな渦を巻いて立ち昇った。 定規のようなものが一把ほどあるがそれがみんな曲りくねっている。升や秤の種類もあるが使えそうなものは一つもない。鏡が幾枚かあるがそれらに映る万象はみ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・「弟と通りを散歩しながら、いつになく、自分の感情の美しからざる事などを投げ出すように話した。おれは自分をあわれむというほかに何も考えない。こんな事を言った。そして弟の前に自分を踏みつけた時に少し心の安まるような心持ちがした。しかしこの絶・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・明治初年の日本は実にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民にな・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民になる、自由平等革新の・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・すでに空間のできた今日であるから、嘘にもせよせっかく出来上ったものを使わないのも宝の持腐れであるから、都合により、ぴしゃぴしゃ投出すと約百余人ちゃんと、そこに行儀よく並んでおられて至極便利であります。投げると申すと失敬に当りますが、粟餅とは・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・そして悲しく、投げ出すように呟いた。「そんな昔のことなんか、どうだって好いや!」 それからまた眠りに落ち、公園のベンチの上でそのまま永久に死んでしまった。丁度昔、彼が玄武門で戦争したり、夢の中で賭博をしたりした、憐れな、見すぼらしい・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・朝は、黄金色のお日さまの光が、とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。殊にあらし・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ そしてたちまち一本の灌木に足をつかまれて投げ出すように倒れました。 諒安はにが笑いをしながら起きあがりました。 いきなり険しい灌木の崖が目の前に出ました。 諒安はそのくろもじの枝にとりついてのぼりました。くろもじはかすかな・・・ 宮沢賢治 「マグノリアの木」
・・・○彼は運命の情熱的賭博においては賭物として遺憾なきまでに自らを投げ出すのである、なぜなら彼は赤と黒、死と生との流転の中にのみ酩酊の快さで自らの生存の全願望を感じるからである、○彼等には真直な方向や明確な目的が全然なく、すべての価値の・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫