・・・ 僕の感想文に対してまっ先に抗議を与えられたのは広津和郎氏と中村星湖氏とであったと記憶する。中村氏に対しては格別答弁はしなかったが、広津氏に対してはすぐに答えておいた。その後になって現われた批評には堺利彦氏と片山伸氏とのがある。また三上・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ かゝる無理な場合でも、子供は、母親に対し、不明な教師に対して、抗議する何等の力を持っていない。それ故に母親が自から改めなければ、強権の力を頼んでも試験勉強の如きを廃して、幾百万の児童を救ってもらいたいと思うのであります。 お母さん・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・しかし、これがために、今日、近距離を行くにさへたる、境遇について、不平を言い、抗議することを知らない。いつも受動的であり、どんなとこにでも甘んじなければならぬ。それを考うる時、四六時中警笛におびやかされ、塵埃を呼吸しつゝある彼等に対して、涙・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆んど連日書き送ったが、さらに効目はない。やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それとも一種のすねた抗議の姿態だろうか。 娘は暫くだまって肩で息をしていたが、いきなり小沢の背中に顔をくっつけて、泣き出した。「何を泣いてるんだ……?」 小沢はわざと冷淡な声を出しながら、窓の外の雨の音を聴いていた。……・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・自分も生爪を剥いだり、銚子を床の間に叩きつけたりしては、下宿から厳しい抗議を受けた。でも昨今は彼女も諦めたか、昼間部屋の隅っこで一尺ほどの晒しの肌襦袢を縫ったり小ぎれをいじくったりしては、太息を吐いているのだ。 何しろ、不憫な女には違い・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・俺は今度会ったら医者に抗議を申し込んでやる」 日に当りながら私の憎悪はだんだんたかまってゆく。しかしなんという「生きんとする意志」であろう。日なたのなかの彼らは永久に彼らの怡しみを見棄てない。壜のなかのやつも永久に登っては落ち、登っては・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・によって行為すべきであるというシルレルの抗議が生じるのだ。 しかしひとたびかような主観的情緒主義を許すと、実践上の道徳的厳粛性というものは保てなくなる。文芸家の実行力の薄弱、社会的善の奉仕の懈怠等は皆ここから生じるのだ。この利己と利他、・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・貧しい大学生などよりは、少し年はふけていても、社会的地歩を占めた紳士のほうがいいなどといった考えは実に、愚劣なものであるというようなことを抗議するのだ。日本の娘たちはあまりに現実主義になるな、浪曼的な恋愛こそ青春の花であるというようなことを・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・かくて政権は確実に北条氏の掌中に帰し、天下一人のこれに抗議する者なく、四民もまたこれにならされて疑う者なき有様であった。後世の史家頼山陽のごときは、「北条氏の事我れ之を云ふに忍びず」と筆を投じて憤りを示したほどであったが、当時は順逆乱れ、国・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫