・・・凡そその程度のものであるから、もとより享楽すべきものであって、これによって、旧文化の根底を改めて新文化をば建設しようなどゝ考えるのは、あまりに安価な考え方であると思われます。 独りドストイフスキイの作品ばかりでなく他の有名なる名作は、事・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・私は、こゝに良心ある一人を動かし、万人を動かし、やがて地上の全社会を動かす信念の力について改めて説くまでもないことを感じます。 今日では、レーニンを殺伐な組織の上の革命家とのみ見るものは少なくなったようです。彼は、殉教者であり、熱烈な無・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・知っての通り、俺も親内と言っちゃ一人もねえのだから、どうかまあ親類付合いというようなことにね……そこで、改めて一つ上げよう」 差さるる盃を女は黙って受けたが、一口附けると下に置いて、口元を襦袢の袖で拭いながら、「金さん、一つ相談があるが・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ その眼付きを見ると、嫉妬深い男だと言った女の言葉が、改めて思いだされて、いまさきまで女と向い合っていたということが急に強く頭に来た。「しかし、まあ、いずれ……」 曖昧に断りながら、ばつのわるい顔をもて余して、ふと女の顔を見ると・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・分家の長兄もいつか運転手の服装を改めて座につき、仕出し屋から運ばれた簡単な精進料理のお膳が二十人前ほど並んで、お銚子が出されたりして、ややいなかのお葬式めいた気持になってきた。それからお経が始まり、さらに式場が本堂前に移されて引導を渡され、・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・過分の茶代に度を失いたる亭主は、急ぎ衣裳を改めて御挨拶に罷り出でしが、書記官様と聞くよりなお一層敬い奉りぬ。 琴はやがて曲を終りて、静かに打ち語らう声のたしかならず聞ゆ。辰弥も今は相対う風色に見入りて、心は早やそこにあらず。折しも障子は・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・白いボンヤリした月のかげに、始め、二三十頭に見えた犬が、改めて、周囲を見直すと、それどころか、五六十頭にもなっていた。川井と後藤とは、銃がないことを残念がりながら、手あたり次第に犬を剣で払いのけた。が、犬は、払いのけきれない程、次から次へと・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・と、小山を倒すが如くに大きなる身を如何にも礼儀正しく木沢の前に伏せれば、丹下も改めて、「それがしが申したる旨御用い下さるよう、何卒、御願い申しまする木沢殿。」という。猶未だ頭を上げなかった男、胴太い声に、「遊佐河内守、それが・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ディオニシアスは、それから改めて二人を自分のそばへよびました。 彼は、これまでかつて人を信ずることの出来なかった、哀れな人間です。彼はしたいままの乱暴をしました。そうしておいて自分の命を少しでも長く盗むために、あらゆる人を疑りました。そ・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・ と言い、それから改めてお二人に御挨拶を申しました。「はじめてお目にかかります。主人がこれまで、たいへんなご迷惑ばかりおかけしてまいりましたようで、また、今夜は何をどう致しました事やら、あのようなおそろしい真似などして、おわびの申し・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
出典:青空文庫