・・・と云う文語体の言葉を繰り返していた。なぜそんな言葉を繰り返していたかは勿論わたしにはわからなかった。しかしわたしは無気味になり、女中に床をとらせた上、眠り薬を嚥んで眠ることにした。 わたしの目を醒ましたのはかれこれ十時に近い頃だった。・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・ある内容を表出せんとするにあたって、文語によると口語によるとは詩人の自由である。詩人はただ自己の最も便利とする言葉によって歌うべきである。という議論があった。いちおうもっともな議論である。しかし我々が「淋しい」と感ずる時に、「ああ淋しい」と・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・私は口語でも文語でも、全体として扱う。F君はそれを一々語格上から分析せずには置かない。私は Koeber さんの哲学入門を開いて、初のペエジから字を逐って訳して聞せた。しかも勉めて仏経の語を用いて訳するようにした。唯識を自在に講釈するだけの・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫