春の山――と、優に大きく、申出でるほどの事ではない。われら式のぶらぶらあるき、彼岸もはやくすぎた、四月上旬の田畝路は、些とのぼせるほど暖い。 修善寺の温泉宿、新井から、――着て出た羽織は脱ぎたいくらい。が脱ぐと、ステッ・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・江戸でこの取調べに当ったのは、新井白石である。 長崎の奉行たちがシロオテを糺問して失敗したのは宝永五年の冬のことであるが、そのうちに年も暮れて、あくる宝永六年の正月に将軍が死に、あたらしい将軍が代ってなった。そういう大きなさわぎのた・・・ 太宰治 「地球図」
・・・現に新聞は共産党への弾圧を挑発するためマ元帥暗殺計画を企てた新井輝成という男の記事を発表している。 当時の中央委員たちによって、スパイとして調べられていた小畑達夫が特異体質のため突然死去したことは、警視庁に全く好都合のデマゴギーの種とな・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・これは本多佐渡守の著と言われながら、早くより疑問視せられているものである。新井白石は本多家から頼まれてその考証を書いているが、結論はどうも言葉を濁しているように思われる。しかしそれがいずれであっても、同一書を媒介として惺窩、蕃山、本多佐渡守・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫