・・・これを錬え直して造った新しい鋭利なメスで、数千年来人間の脳の中にへばり付いていたいわゆる常識的な時空の観念を悉皆削り取った。そしてそれを切り刻んで新しく組立てた「時空の世界像」をそこに安置した。それで重力の秘密は自明的に解釈されると同時に古・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・しからばこれらの在来の時空四次元的芸術と映画といかなる点でいかに相違するかという問題が起こって来る。 まず最も分明な差別はこれらの視覚的対象と観客との相対位置に関する空間的関係の差別である。舞踊や劇は一定容積の舞台の上で演ぜられ、観客は・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・最も卑近な言葉をもって言い現わせば、恒久なる時空の世界をその具体的なる一断面を捕えて表現せよ、ということである。本体を表現するに現象をもってせよ、潜在的なる容器に顕在的なる物象を盛れというのである。本情といい風情というもまた同じことである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・知るものは、時空の世界においてあるとともに、これを越えたものでなければならない。如何にして時空の世界の中にありて、しかもこれを越えるということが可能であるか。それは表現的関係によって考えられねばならない。自己が世界を表現するとともに、世界の・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その私の旅行というのは、人が時空と因果の外に飛翔し得る唯一の瞬間、即ちあの夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊ぶのである。と言ってしまえば、もはやこの上、私の秘密について多く語る必要はないであろう。ただ私の場合は、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・そして、その積極なものの本質は、時空的なものに対する作家としての態度にかかっており、芥川、菊池の歴史物と本質の相異をなしている。云ってみればその相異のうちに、日本の苦難な精神史の実績の幾頁かが作者の知る知らぬにかかわりなくたたみこまれている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫