・・・それは人間の団体、なかんずくいわゆる国家あるいは国民と称するものの有機的結合が進化し、その内部機構の分化が著しく進展して来たために、その有機系のある一部の損害が系全体に対してはなはだしく有害な影響を及ぼす可能性が多くなり、時には一小部分の傷・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・この両者は実は合して一つの有機体を構成しているのであって究極的には独立に切り離して考えることのできないものである。人類もあらゆる植物や動物と同様に長い長い歳月の間に自然のふところにはぐくまれてその環境に適応するように育て上げられて来たもので・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 日本人は西洋人のように自然と人間とを別々に切り離して対立させるという言わば物質科学的の態度をとる代わりに、人間と自然とをいっしょにしてそれを一つの全機的な有機体と見ようとする傾向を多分にもっているように見える。少し言葉を変えて言ってみ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 事実はとにかく、このような連関は鉄道省とそれを統率する内閣とが一つの有機体である以上可能なことである。 いつか自分の手指の爪の発育が目立って悪くなり不整になって、たとえば左の無名指の爪が矢筈形に延びたりするので、どうもおかしいと思・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・無機体では白金だし有機体では豚なのだ。考えれば考える位、これは変になることだ。」 豚はもちろん自分の名が、白金と並べられたのを聞いた。それから豚は、白金が、一匁三十円することを、よく知っていたものだから、自分のからだが二十貫で、いくらに・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑れたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・地球上に在るおのおのの集団――国――が、現在どんな有機的関係を持っているか、又、どう云う運命の下に、日夜、同じ太陽を廻っているか。それ等を、わが胸で痛感する者は、決して未だ多過ぎることは無いのである。 近頃、漸々一体の注意を呼び始めた、・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・恋愛とか友情とかは、人間感情がたかまった形として、とかくそれだけ切りはなした言葉で問題とされ勝ちだけれども、日々の生活のなかでは、めいめいの生活態度全体とまったく有機的につながり合っているもので、友情を語ることは、人生への態度を語るという意・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ポッツリ切りはなされている亀のチャーリーという男が、ニューヨークには、ほかの日本人労働者も学生も商人もいるであろうのに、それらとはちっともかかわりなく、またアメリカの労働者、その前衛とも何の有機的結合をも示さず、ひたすらアメリカの子供に向っ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・大岡昇平、火野、林などの作家にふれた前半と後半とはばらばらで、きょうの日本とその人民が歴史的におかれている大きい背景をもって諸作品が有機的に評価されるためには何かが足りなかった。 創作の方法は、世界観から規定されると云われたのは一九三〇・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
出典:青空文庫