・・・このたび思いがけなく新聞切抜きを発見することができたのも、宮原氏の未亡人の協力によった。 新聞に連載した小説ではあるが、「古き小画」はまるで新聞小説ではない。古代ペルシアの英雄ルスタムとその息子との悲劇の、謂わば古風なものがたりであり、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円二千円で子供らは売られている。 ソヴェト同盟は第二次大戦にナチスとの戦いで七百五十万人を失った。連合国のなかでは最も犠牲が大きかった。またフランスをのぞけば最も深く国内をナチスによって・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・こんにち、わたしたちが、かりに一人の未亡人の生活の上に、とざされた性の課題を見出すとき、それは社会的な複雑な条件に包囲されているばかりに、とざされた性としておかれていなければならないことを見ないものがあるだろうか。女性と子供とが、その社会で・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・四月末の、政府のきめた婦人週間にしろ、ことしは、はっきりと百数十万の日本の未亡人の問題がとりあげられた。そして、ここにも希望されたのは平和であり、生きてゆく人の命の尊さとその運命に対するまじめな相互責任についての考え直しであった。子供の日に・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ルーズヴェルト未亡人が、トルーマンを支持しないという声明を出して、それが日本の新聞にも出るころから、デューイの元気そうな笑顔が世界の隅々まで流れひろがった。だけれども、ほんとに平和と民族の自立を渇望している世界の人々のこころは、不安を感じて・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・の悲劇のテーマが、もしきょうの日本でもう社会的に解決されてしまった問題ならば、日本の数十万の未亡人の境遇は、すべての面でこんにちそれがあるようにはないであろう。原因と結果とは互に作用しあっているから、もしもすべての女性が妻であり母であること・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・何人かの未亡人があるというのも、何と意義深いことでしょう。 フランスの婦人たちは、この戦争によって流した無限の涙と、引き裂かれ失われたすべての愛のなきがらの中から、再び人民を戦争に追い立てるような権力のとりのぞかれた世界を創ろうと決心し・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・嫡子のある限りは、いかに幼少でもその数には漏れない。未亡人、老父母には扶持が与えられる。家屋敷を拝領して、作事までも上からしむけられる。先代が格別入懇にせられた家柄で、死天の旅のお供にさえ立ったのだから、家中のものが羨みはしても妬みはしない・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・りよは十人並の容貌で、筋肉の引き締まった小女である。未亡人は頭痛持でこんな席へは稀にしか出て来ぬが、出て来ると、若し返討などに逢いはすまいかと云う心配ばかりして、果はどうしてこんな災難に遇ったことかと繰り返してくどくのであった。日が窪から来・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・然るに佐平もその子女も先ず死して、未亡人ぎんが残った。これが崖上の家の女主人であった。」わたくしは此に由って、父が今の家を是阿弥の未亡人の手から買い取ったと云うことを知った。 香以の他の友人二人の事は文淵堂主人が語った。石橋真国と柴田是・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫