・・・それはどこまでも内容を本位とするものでなければならない。 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・脚を一本お貰い申したがね、何の、君、此様な脚の一本位、何でもないさねえ。君もう口が利けるかい?」 もう利ける。そこで一伍一什の話をした。 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「じつは、僕も発起人の一人となっていて、今さらこんな我儘を言ってすまないわけだが、原口君とか馬越君とかそうした親しい友人を除外した、全然出版屋政策本位の会だとすると、僕の気持としては、出席したくはないのだ。もともとそうした動機からなりた・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・あそこはまるで主人公本位にできた家だね。主人公さえよければ、ほかのものなぞはどうでもいいという家だ。ただ、主人公の部屋だけが立派だ。ああいう家を借りて住む人もあるかなあ。そこへ行くと、二度目に見て来た借家のほうがどのくらいいいかしれないよ。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・近代理論物理学の傾向がプランクなどの言うごとく次第に「人間本位の要素」の除去にあるとすればその結果は一面において大いに客観的であると同時にまた一面においては大いに主観的なものとも言えない事はない。芸術界におけるキュービズムやフツリズムが直接・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・と感ずるかは畢竟人間本位の判断であって、人間が判断しやすい程度の時間間隔だというだけのことである。この判断はやはり比較によるほかはないので、何かしら自分に最も手近な時間の見本あるいは尺度が自然に採用されるようになるであろう。脈搏や呼吸なども・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・彼は興味本位の立場から色々な怪奇をも説いてはいるが、腹の中では当時行われていた各種の迷信を笑っていたのではないかと思われる節もところどころに見える。『桜陰比事』で偽山伏を暴露し埋仏詐偽の品玉を明かし、『一代男』中の「命捨ての光物」では火の玉・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 地震の科学的研究に従事する学者でも前述のような自己本位の概念をもっていることは勿論であるが、専門の科学上の立場から見た地震の概念は自ずからこれと異なったものでなければならない。 もし現在の物質科学が発達の極に達して、あらゆる分派の・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・いちばん延び過ぎた所から始めるという植物の発育を本位に置いた考案もあった。こんな事にまで現代ふうの見方を持って来るとすれば、ともかくも科学的に能率をよくするために前にあげた第一の要求を満たす方法を選んだほうがよさそうに思われた。能率を論ずる・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 自分が昔現在の家を建てたとき一番日当りがよくて庭の眺めのいい室を応接間にしたら、ある口の悪い奥さんから「たいそう御客様本位ですね」と云って、底に一抹の軽い非難を含んだような讃辞を頂戴したことがあった。この奥さんの寸言の深い意味に思い当・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
出典:青空文庫