・・・落選という何の取りどころも無き奇態の人物に御座候えども、父祖伝来のかなりの財産を後生大事に守り居る様子にて、しかしながら人間の価値その財産に依って決定せらるべきものならば老生は只今、割腹し果申すべし、杉田老画伯の如きは孫の数人もありながら赤・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ この主人公は名を杉田古城といって言うまでもなく文学者。若いころには、相応に名も出て、二、三の作品はずいぶん喝采されたこともある。いや、三十七歳の今日、こうしてつまらぬ雑誌社の社員になって、毎日毎日通っていって、つまらぬ雑誌の校正までし・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ その後、宝暦明和の頃、青木昆陽、命を奉じてその学を首唱し、また前野蘭化、桂川甫周、杉田いさい等起り、専精してもって和蘭の学に志し、相ともに切磋し、おのおの得るところありといえども、洋学草昧の世なれば、書籍はなはだ乏しく、かつ、これを学・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・じられた小島としての条件のなかで、我々の祖先の秀抜な人々が、真理を求め、知識をさがして生命の危険さえ冒しながら粒々刻苦して、偶然渡来した医書や物理書の解読や翻訳に献身した努力と雄々しさとは、前野良沢や杉田玄白が日本で最初の解剖書となったター・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
出典:青空文庫