・・・これに反して、こんな些細な事実を元にしてこんな無用な空想をたくましゅうしていられるような果報な人間もいるのである。やはり切符をやればよかったのである。 二 エレベーター 百貨店のひどく込み合う時刻に、第一階の昇降機入・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ずいぶん果報な道楽者だとも云われるであろう。 ここまで書いて筆を擱くつもりでいたら、その翌日人に誘われて国宝展覧会を観に行った。古い絵巻物のあるものを見ていたらその絵の内容とその排列に今のレビューと実によく似たものがあることに気が付いた・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・過ぐる十日を繋がれて、残る幾日を繋がるる身は果報なり。カメロットに足は向くまじ」「美しき少女! 美しき少女!」と続け様に叫んでギニヴィアは薄き履に三たび石の床を踏みならす。肩に負う髪の時ならぬ波を描いて、二尺余りを一筋ごとに末まで渡る。・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫