・・・我輩窃かに案ずるに、かの伊奘諾尊、伊奘冊尊、またはアダム、イーブの如きも、必ずこの夫婦の徳義を修めて幸福円満なりしことならんと信ずるのみ。 されば人生の道徳は夫婦の間に始まり、夫婦以前道徳なく、夫婦以後始めてその要を感ずることなれば、こ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・(暫く物を案ずる様子にてあちこち歩く。舞台の奥にてヴァイオリンの音聞ゆ。物懐しげに人の心を動かす響なり。初めは遠く、次第に近く、終にはその音暖かに充ち渡りて、壁隣の部屋より聞ゆる如音楽だな。何だか不思議に心に沁み入るような調べだ。あの男が下・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・それが緩和されるときいて、安心のため息をつき、案ずるがものはなかったのさ、と云っているのは、決して決して日本の人口の九割五分をしめる勤労階級ではない。資本は資本と結びつく、という原則にしたがって、儲けておいては昨日までの超国家主義のうらがえ・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
出典:青空文庫