・・・ 父が最後の二三年、楽天氏のアトリエで漫画を折々描いていたということを、ふと楽天氏が洩らされたことがありました。シャツだけになって、大した元気で一時間ばかり描いて行かれますよ、というお話でしたが、父はそのことについては何も云わず、作品と・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・優秀な、着実な今日の若い人々は、決して、反動家のように野蛮な楽天家でもなく、卑屈な脱落者のように卑屈でもあり得ないのである。 私たちは、自分たちが生活している環境も無視して恋愛も結婚も語ることができない以上、農村の若い男女の実際と、・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・明治・大正の女流教育家たちは、その解釈を、日本資本主義の興隆期らしい楽天性と卑俗性とで与えた。人間は目的を持って努力の生活をすれば、自ら身体は強健になり、蓄財も出来、老後は天命を楽しめるのである。「怒るな。働け」と。 今日の生活は、こう・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
・・・安価な楽天主義は人生を毒する。魂の饑餓と欲求とは聖い光を下界に取りおろさないではやまない。人生の偉大と豊饒とは畢竟心貧しき者の上に恵まれるでしょう。悩める者、貧しき者は福なるかな。私は自分の貧しさに嘆く人々が一日も早く精神の王国の内に、偉大・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫