・・・「空論をお話して一向とりとめがないけれど、それは恐縮でありますが、丁度このごろ解析概論をやっているので、ちょっと覚えているのですが、一つの例として級数についてお話したい。二重もしくは、二重以上の無限級数の定義には、二種類あるのではないか、と・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・役人は、ますますさかんに、れいのいやらしい笑いを発して、厚顔無恥の阿呆らしい一般概論をクソていねいに繰りかえすばかり。民衆のひとりは、とうとう泣き声になって、役人につめ寄る。 寝床の中でそれを聞き、とうとう私も逆上した。もし私が、あの場・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・僕はただ、動物学のほうから女類一般の概論を述べただけだ。女類は、金が好きだからなあ。死人の額に三角の紙がはられて、それに『シ』の字が書かれてあるように、女類の額には例外無く、金の『カ』の字を書いた三角の紙が、ぴったりはられているんだよ。」・・・ 太宰治 「女類」
・・・ 今月は、それこそ一般概論の、しかもただぷんぷん怒った八ツ当りみたいな文章になったけれども、これは、まず自分の心意気を示し、この次からの馬鹿学者、馬鹿文豪に、いちいち妙なことを申上げるその前奏曲と思っていただく。 私の小説の読者に言・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・しかしまた、きざに大先生気取りして神妙そうな文学概論なども言いたくないし、一つ一つ言葉を選んで法螺で無い事ばかり言おうとすると、いやに疲れてしまうし、そうかと言って玄関払いは絶対に出来ないたちだし、結局、君たちをそそのかして酒を飲みに飛び出・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・今回は紙数の制限もあるので以上の予備的概論にとどめ、ただ多少の見込みのありそうな一つの道を暗示するだけの意味でしるしたに過ぎない。従って意を尽くさない点のはなはだ多いのを遺憾とする。ともかくもかかる研究の対象としては火山の名が最も適当なもの・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・哲学の講義をしていた。この人はその頃まだ三十そこらの年輩の人であった。ベルリンでロッチェの晩年の講義を聞いたとかいうので、全くロッチェ学派であった。哲学概論といっても、ロッチェ哲学の梗概に過ぎなかった。その頃ドイツ人でも英語で講義した。中々・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・ 曙覧の歌調を概論すれば第二句重く第四句軽く、結句は力弱くして全首を結ぶに足らざるもの最も多きに居る。『万葉』にこの頭重脚軽の病なきはもちろん、『古今』にもまたなし。徳川氏の末ようやく複雑なる趣向を取るに至りて多くは皆この病を免れず。曙・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ごく初歩の概論だったにちがいないけれども、この学課の興味は全く私を熱中させた。初めてここで、学校で学ぶことと自分の生活全体の関心とが相通じる一点を持ったようで、私の文学的読書も段々奥ゆきをもちはじめた。その頃はもう「白樺」の影響とトルストー・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・昔から、婦人の犯罪や自殺と生理的異常との関係は常識の上でも理解されているのであり、そういう統計は出ているけれども、例えば大西博士の「労働医学概論」などで婦人労働者の数など調べられてはいても、それ等の婦人労働者の生理的異常の時期の待遇等は観察・・・ 宮本百合子 「職業婦人に生理休暇を!」
出典:青空文庫