・・・自分はまだそのときカントの第二批判を知らなかったが、自分のたましいの欲するところはとりもなおさずカントの至完善の要請であったのである。人間の倫理的養成がいかにわれらの禀性に本具しているかはこれでも思いあたるのである。その青春時代学芸と教養と・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 茲に今林氏の好意に酬い、且その後の研究を述べて、儒家諸賢の批判を請はんと欲す。而して林氏の説に序を逐うて答ふるも、一法なるべけれど、堯舜禹の事蹟に關する大體論を敍し、支那古傳説を批判せば、林氏に答ふるに於いて敢へて敬意を失することなか・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・古人初めて陳ぶるに臨まば奇功多からざらんを欲す。その小成に安んずるをおそるるなり。今君は弱冠にして奇功多し。願わくは他日忸れて初心を忘るるなかれ。余初めて書を刊して、またいささか戒むるところあり。今や迂拙の文を録し、恬然として愧ずることなし・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・その詩は父の遺稿に、蘆花如雪雁声寒 〔蘆花は雪の如く 雁の声は寒し把酒南楼夜欲残 南楼に酒を把り 夜残らんと欲す四口一家固是客 四口の一家は固より是れ客なり天涯倶見月団欒 天涯に倶に見る月も団欒す〕・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・国の権を争い人の利を貪ぼるは、他なし、自国自身の平安を欲する者なり。 また、物を盗み人を殺す者といえども、自から利して自己の平安幸福をいたさんと欲するにすぎず。盗んでこれを匿し、殺して遁逃するは何ぞや。他の平安幸福をば害すれども、おのず・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・これもと一場の戯言なりとはいえども、この戯言はこれを欲するの念切なるより出でしものにして、その裏面にはあながちに戯言ならざるものありき。はたしてこの戯言は同氏をして蕪村句集を得せしめ、余らまたこれを借り覧て大いに発明するところありたり。死馬・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・本社はさらに深く事件の真相を探知の上、大いにはりがねせい、ねずみとり氏に筆誅を加えんと欲す。と。ははは、ふん、これはもう疑いもない。ツェのやつめ、ねずみとりに食われたんだ。おもしろい。そのつぎはと。なんだ、ええと、新任ねずみ会議員テ氏。エヘ・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・p.179○しかも新しい人間を創造する六日目の予感がある、p.179○皆がみな限界をもたず未知の世界に立っている p.179○彼は生を痛感することを希う p.169○原泉から飲むことを欲す p.176○彼等は生活を真裸と・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・として孝たるを欲す。愛なき孝は冷たき虚礼に過ぎぬ。人格の共鳴なき信は水の面の字である。犠牲心なき忠は偽善である。 現代の道徳は霊的根底を超越して偽善を奨励す。冷ややけき顔に自ら「理性の権化」と銘する人はこの偽善を社会に強い、この虚礼をも・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫