・・・「ええ、私もそれを言わないことじゃなかったのですよ、あまりあれじゃはで作りで、どう見ても七か八に見えますもの。正真なところ、二月生まれの十九ですから……お光さんからもそうちょっと断っておもらい申すでしたにねえ」「そりゃ言いましたとも・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・そうして付け合わせの玩味に際してしいて普遍的論理的につじつまを合わせようとするような徒労を避け、そのかわりに正真な連句進行の旋律を認識し享楽することができはしないかと思うのである。 専門の心理学者ことに精神分析学者の目で連句の世界を見渡・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・すでに愁歎と事がきまればいくらか愁歎に区域が出来るが、まだ正真の愁歎が立ち起らぬその前に、今にそれが起るだろうと想像するほどいやに胸ぐるしいものはない。このような時には涙などもあながち出るとも決ッていず、時には自身の想像でわざと涙をもよおし・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫