・・・有機系とはなんの交渉もないものが繁殖し始めるとその有機系の調和が破壊され、その活力が阻害され結局死滅する、それと同時にその死滅を促成した反逆者の一群も死滅することは当然である。 国家という有機体にも時々癌腫が発生する。ひどくなると国家を・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・一つの不注意な失策も、彼らの崩壊と死滅を意味する。町全体の神経は、そのことの危懼と恐怖で張りきっていた。美学的に見えた町の意匠は、単なる趣味のための意匠でなく、もっと恐ろしい切実の問題を隠していたのだ。 始めてこのことに気が付いてから、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・そして、怨霊のために、一家が死滅したことは珍しくなかった。だが、どんな怨霊も、樫の木の閂で形を以って打ん殴ったものはなかった。で、無形なものであるべき怨霊が、有形の棍棒を振うことは、これは穏かでない話であった。だが、困った事には、怨霊の手段・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・バクテリヤは次から次と分裂し死滅しまるで速かに速かに変化してるのです。それを殺すと云ったところで馬を殺すというようのとは大分ちがいます。又バクテリヤの意識だってよくはわかりませんがとにかく私共が生れつきバクテリヤについては殺すとかかあいそう・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・おそろしい化学力をもつその兵器の効果は、すべての人類をたちまち醜い不具にして、死滅させる威力をそなえているものであると説明されている。それを公表しているのはイギリスの学者であった。 わたしはそのニュースに目をこらした。そしてだんだん体の・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・プロレタリア文学が、方針に於て或る時期機械的な政治の優位を認めたと云って、文学を死滅さすものだと非難した人を顧ればその筆頭は林房雄氏であった。同じ人が僅か四五年の後に進んで現行勢力の下位に文学を置こうとすることは理解に困難である。 室生・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 前後して、元老の山縣公が、一般の無感興の裡にじりじりと死滅して、十日が、国葬であった。為に、確答がないから、繰り合わせてもよいものと思い、林町へ頼み、定ったら来て貰うべき日であった二月十一日に、引越しをしてしまったのである。 落付・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫