・・・わたしの信ずるところによれば、或は柱頭の苦行を喜び、或は火裏の殉教を愛した基督教の聖人たちは大抵マソヒズムに罹っていたらしい。 我我の行為を決するものは昔の希臘人の云った通り、好悪の外にないのである。我我は人生の泉から、最大の味を汲み取・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・彼等のすべてが人道主義者として、また殉教的な敬虔な心の持主として、人生のために戦うに至るのもこれあるがためです。 こゝに於て、芸術は畢竟享楽のためでなくして、一個の目的を有さなければならぬことを知ることが出来ます。 私は、この美に向・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・ 彼は法難によって殉教することを期する身の、しきりに故郷のことが思われて、清澄を追われて十三年ぶりに故郷の母をかえりみた。父は彼の岩本入蔵中にみまかったのでその墓参をかねての帰省であった。「日蓮此の法門の故に怨まれて死せんこと決定也・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・という小説の中などでは、予言者として怒号の表情だけ誇張して扱われているサヴォナロラの殉教の意味も、当時の進歩とその不徹底の両面を象徴するものとして、この本では明瞭な歴史的判断におかれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの生きかたさえ、この本の中・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・なぜなら、その帝国主義排斥のまとになって殉教した人々は善良かつ悪意のない人々であったからである――彼等は盲目的であったが、そのために善良かつ悪意のなかったことに累を及ぼす筈がない。」そして、バックは「これ等二つのもの――理性と心の声は決して・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・その被衣姿、二十六聖徒殉教図などに描かれているままであった。 同じ日に浦上の天主堂も観た。大浦天主堂は日本最古の建築、浦上のは最大の建物だ。浦上の切支丹信徒が経験した受難の種々は世に知られている。この建物も、始め起工した時から近年完成す・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ もしこうなるとすれば、ロマン・ロオランのごとき人が、殉教的な熱情をもって高貴な芸術と民衆との間に通弁すべき時が来るのである。ここで真に芸術の使徒となろうとする人は生命を賭してロマン・ロオランのごとき人を支持するのである。 人間は神・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫