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・・・ねがえりの耳に革鞄の仮枕いたずらに堅きも悲しく心細くわれながら浅猿しき事なり。残夢再びさむれば、もう神戸が見えますると隣りの女に告ぐるボーイの声。さてこそとにわかに元気つきて窓を覗きたれど月なき空に淡路島も見え分かず。再びとろ/\として覚む・・・
寺田寅彦
「東上記」
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・・・学校の規則もとより門閥貴賤を問わずと、表向の名に唱るのみならず事実にこの趣意を貫き、設立のその日より釐毫も仮すところなくして、あたかも封建門閥の残夢中に純然たる四民同権の一新世界を開きたるがごとし。 けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族・・・
福沢諭吉
「旧藩情」