・・・の問題として理論的にもかなりたびたび取り扱われたもので、工学上にもいろいろの応用のあるのはもちろんであるが、また一方では、平行山脈の生成の説明に適用されたり、また毛色の変わった例としては、生物の細胞組織が最初の空洞球状の原形からだんだんと皺・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・牛の毛色が燃えるように光って見えた。それはどうしてもこの世のものではなくてだれかの名画の中の世界が眼前に生きて動いているとしか思われなかった。 ほとんど感傷的になって見とれている景色の中には、こんなに日が暮れかかってもまだ休まず働いてい・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ 丙種の科学者になると、かえってこうした毛色の変わった問題に好奇的興味を感じ、そうして、人のまだ手を着けない題材の中に何かしら新しい大きな発見の可能性を予想していろいろ想像をめぐらし、何かしら独創的な研究の端緒をその中に物色しようとする・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・もちろん、その言語の内容は、われわれ日常の言語のそれとはだいぶ毛色のちがったものである。しかし幾十百億年後の人間の言語が全部数学式の連続に似たものになりはしないかという空想をほんの少しばかりデヴェロープして考えてみると、この譬喩が必ずしも不・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・学風の新鮮を保ち沈滞を防ぐためにはやはりなるべく毛色のちがった人材を集めるほうがかえっていいかもしれないのである。同じことは他のあらゆる集団についても言われるであろう。 それはとにかく、ある時東海道の汽車に乗ったら偶然梅ヶ谷と向かい合い・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・シラー町の突き当たりの角は大きな当世ふうのカッフェーで、ガラス窓の中から二十世紀の男女が、通りかかった毛色の変わった私を珍しそうに見物していました。町も辻も落ち葉が散り敷いて、古い煉瓦の壁には血の色をした蔓がからみ、あたたかい日光は宮城の番・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・猫などは十匹が十匹毛色はちがっても性質の相違などはないもののようにぼんやり思っていたのである。動物の中での猫の地位が少し上がって来たような気がした。 子供のみならず、今度は妻までも口を出してこの三毛を慣らして飼う事を希望したが、私はやっ・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・そのうちにだれか西洋で毛色の変わった日本学者がこの連句芸術を「発見」して、これを驚嘆し礼賛し宣伝する日が来るかもしれない。そうすると、ちょうど荷物の包み紙になっていた反古同様の歌麿や広重が一躍高貴な美術品に変化したと同様の現象を呈するかもし・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・宗匠はそこで涼の会や虫の会を開いて町の茶人だちと、趣向を競った話や、京都で多勢の数寄者の中で手前を見せた時のことなどを、座興的に話して、世間のお茶人たちと、やや毛色を異にしていることを、道太に頷かせた。「こんな物でもお気に入ったら」おひ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・今時の女、それにまだ二十にもならない女が大胆に自分の思って居ることを人に告げる、その事も主人の弟を思って居た事を主に告げる、あまり大胆な仕業であるが―― 殿は斯う思って迷った、けれ共常からどこか毛色の変った学問の深い考のある女の事だから・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫