・・・そこで、当番御目付土屋長太郎、橋本阿波守は勿論、大目付河野豊前守も立ち合って、一まず手負いを、焚火の間へ舁ぎこんだ。そうしてそのまわりを小屏風で囲んで、五人の御坊主を附き添わせた上に、大広間詰の諸大名が、代る代る来て介抱した。中でも松平兵部・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・そして、可愛いお嬢さんが、決して決して河野なんかと御縁組なさいませんよう。早瀬 それから。お蔦 それから?早瀬 それから、……お蔦 だって、あとは分ってるじゃありませんかね。ほほほほ。早瀬 ははは、で、何を買って来たんだ・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・福見や河野が洋行する話や、桜井が内務省の参事官で幅を利かせているような話が出ると竹村君は気の乗らぬ返辞をしてふっと話題を転ずるのであった。 今日も夕刻から神楽坂へ廻って、紙屋の店で暮の街の往来を眺めていた。店の出入りは忙しそうであったが・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・ 河野の義さんが生まれた年だから、もうかれこれ十四五年の昔になる。自分もまだやっと十か十三ぐらいであったろう。きたる幾日義雄の初節句の祝いをしますから皆さんおいでくださるようにとチョン髷の兼作爺が案内に来て、その時にもらった紅白の餅が大・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・「余は去りて榊病院に河野氏を訪ひぬ。恰も Miss Read、孝夫、信子氏あり。三人の帰後余は夫人の為に手紙の代筆などし少しく語りたる後辞し帰りぬ。 神よ、余は此の筆にするだに戦きに堪へざる事あり。余は余の謬れるを知る。余は暫く・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 河野密氏の例によれば、人選はある程度まで当ったろう。とにかく読者は、オヤ、この人がこんなことをやるのか、と思った。そこで、ジャーナリズムの目的は達せられたので、岩藤雪夫の小説「鍛冶場」が、どんなひどい階級的裏切りを示しているか、ダラ幹・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・ この近所には千葉で三年ばかり暮すことになった山田さんの奥さん[自注20]もいるし、河野さくらさん[自注21]が留守中のひとり暮しをして居ります。 ところでお読みになる本について、私ははっきりしたお手紙を見るまで自分の考えで入れるし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・兄上の谷口辞三郎氏は、早い頃フランス文学を日本に紹介した方であるし、兄上の一人の河野桐谷氏は、日蓮の研究家、文筆の人として活動された。孝子夫人が文学について趣味の深いことは、血統のおくりものと云えるのかもしれない。 その上に、孝子夫人の・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ 三日の夕方、東交代表河野争議部長が、下唇を突出し気味に背中を堅くして椅子にかけている山下局長に向って整理案撤回要求書を差し出しているところを撮った写真が出た。でっぷり太った角がりでチョビ髭を生やした河野が詰襟服姿で起立し、要求書の両端・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・主人は河野と云って背の低い胖大漢であった。その妻は吉原の引手茶屋湊屋の女みなというもので、常にみいちゃんと呼ばれていた。芸者屋の湊屋と号するも、吉原の湊屋の号より取ったものであった。明治四年二月の頃、この家の抱えは貫六、万吉、留八の三人であ・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫