・・・意は実相界の諸現象に在っては自然の法則に随って発達するものなれど、小説の現象中には其発達も得て論理に適わぬものなり。譬ば恋情の切なるものは能く人を殺すといえることを以て意と為したる小説あらんに、其の本尊たる男女のもの共に浮気の性質にて、末の・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・思想之法則は人間の頭に上る思想を整理するだけで、其が人間の真生活とどれだけの関係があるか。心理学上、人間は思想だけじゃない。精神活動力の現われ方には情もあれば知もあり意もある。それを思想だけ整理しても駄目じゃないか。成程、相等しき物は同一な・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・はっはっは、どうだ、もっともそれはおれのように勢力不滅の法則や熱力学第二則がわかるとあんまりおかしくもないがね、どうだ、ぼくの軍隊は規律がいいだろう。軍歌にもちゃんとそう云ってあるんだ。」 でんしんばしらは、みんなまっすぐを向いて、すま・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・器械的に対称の法則にばかり叶っているからってそれで美しいというわけにはいかないんです。それは死んだ美です。」「全くそうですわ。」しずかな樺の木の声がしました。「ほんとうの美はそんな固定した化石した模型のようなもんじゃないんです。対称・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・だが、そのうちに、ダイナミックに自然法則はとらえられる。「風知草」はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える作品である。省略され、ときには素早い現実の動きをおっかけた飛躍のあるタッチで、重吉と・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・その変化をつらぬく法則は理解されている。私たちはもう、人間の命は眼の中にあるという素朴な固定で考えてはいない。けれども、昔のエジプト人たちの知らなかった生理の知識によって人間の眼の構造の精緻なことを感嘆する私たちのよろこばしい驚きはますます・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・飼と同様だとは思わないが、急流を下り競いながら、獲物を捕る動作を赤赤と照す篝火の円光を眼にすると、その火の中を貫いてなお灼かれず、しなやかに揺れたわみ、張り切りつつ錯綜する綱の動きもまた、世界の運動の法則とどことなく似ているものを感じた。・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・感覚の消滅したがごとき認識活動はその自らなる力なき形式的法則性故に、忽ち文学活動に於ては圧倒されるにちがいない。何ぜなら、感覚は要約すれば精神の爆発した形容であるからだ。 自分は茲では文学的表示としての新しき感覚活動が、文化形式との関係・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・その道理というのは、自然現象の中にあるきまりを意味するとともに、また人間の行為を支配する当為の法則をも意味している。しかもその後者を考えるに際して、かなり綿密である。たとえば人間の道理の一例として、彼は、「身持が身の程を超えれば天罰を蒙る」・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・科学の道に入れば彼は自然と人生とに現われた微妙な法則に驚異してある知られざる力に衝き当たらずにはいられない。哲学者としては彼は生命の創造力の無限に驚いて人智のかなたに広い世界を認めることになる。――偶像は再び求められるのである。 神は再・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫