・・・総長にでもなる人にはやはりそれだけの活力があるのかと思われた。 入学証書と云ったような幅一尺五寸長二尺ほどの紙に大きな活字で皇帝や総長の名を黒々と印刷したものを貰ったが文句はラテン語で何の事か分らない、見ていると気の遠くなるようなもので・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・思った点は、この現在のアメリカのものの方が一層徹底的に無意味で、そのために却ってさっぱりしていて嫌味が少ないことと、それからもう一つは優美とか典雅とかいう古典的要素の一切を蹴飛ばしてしまって、旺盛な生活力を一杯に舞台の上に横溢させていること・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・吾人の活力発展の内容が、自然にこの輪廓を描いた時、始めて自然主義に意義が生ずるのである。 一般の世間は自然主義を嫌っている。自然主義者はこれを永久の真理の如くにいいなして吾人生活の全面に渉って強いんとしつつある。自然主義者にして今少し手・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・「カントは活力論を著せり、余は反って活力を弔う文を草せんとす。物を打つ音、物を敲く音、物の転がる音は皆活力の濫用にして余はこれがために日々苦痛を受くればなり。音響を聞きて何らの感をも起さざる多数の人我説をきかば笑うべし。されど世に理窟をも感・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・彼らから見て闇に等しい科学界が、一様の程度で彼らの眼に暗く映る間は、彼らが根柢ある人生の活力の或物に対して公平に無感覚であったと非難されるだけで済むが、いやしくもこの暗い中の一点が木村項の名で輝やき渡る以上、また他が依然として暗がりに静まり・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・ 開化は人間活力の発現の経路である。と私はこう云いたい。私ばかりじゃない、あなた方だってそういうでしょう。もっともそう云ったところで別に書物に書いてある訳でも何でもない、私がそう言いたいまでの事であるがその代り珍らしくも何ともない。がこ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・あるいは旧派の芝居を見ても、能の仕草を見ても、ここで足をこのくらい前へ出すとか、また手をこのくらい上へ挙げると一々型の通りにして、しかも自分の活力をそこに打込んで少しも困らないではないか。型を手本に与えておいてその中に精神を打ち込んで働けな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・「もっとも崇高なる天地間の活力現象に対して、雄大の気象を養って、齷齪たる塵事を超越するんだ」「あんまり超越し過ぎるとあとで世の中が、いやになって、かえって困るぜ。だからそこのところは好加減に超越して置く事にしようじゃないか。僕の足じ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ジョン・モーレーのいった通り何人にもあれ誠実を妨ぐるものは、人類進歩の活力を妨ぐると一般であって、その真正なる日本の進歩は余の心を深くかつ真面目に動かす題目に外ならぬからである。」 余は先生の人となりと先生の目的とを信じて、ここに先生の・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・のみならず芸術的に厭味がなく道徳的に正直であるという事がこの際同じ物を指しているばかりではなく理知の方面から見れば真という資格に相当するのだから、つまりは一つの物を人間の三大活力から分察したと異なるところはないのであります。三位一体と申して・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫