縁日 柳行李 橋ぞろえ 題目船 衣の雫 浅緑記念ながらと散って、川面で消えたのが二ツ三ツ、不意に南京花火を揚げたのは寝ていたかの男である。 斉しく左右へ退いて、呆気に取られた連の両人を顧みて・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 乱れがみをむしりつつ、手で、砕けよ、とハタと舷を打つと……時の間に痩せた指は細くなって、右の手の四つの指環は明星に擬えた金剛石のをはじめ、紅玉も、緑宝玉も、スルリと抜けて、きらきらと、薄紅に、浅緑に皆水に落ちた。 どうでもなれ、左・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・白っぽい砂礫を洗う水の浅緑色も一種特別なものであるが、何よりも河の中洲に生えた化粧柳の特異な相貌はこれだけでも一度は来て見る甲斐があると思われた。この柳は北海道にはあるが内地ではここだけに限られた特産種で春の若芽が真赤な色をして美しいそうで・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・その杯状のものの横腹から横向きに、すなわち茎と直角の方向に飛び出している浅緑色の袋のようなものがおしべの子房であるらしく、その一端に柱頭らしいものが見える。たいていの花では子房が花の中央に君臨しているものと思っていたのに、この植物ではおしべ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・海の色は暗緑で陸近いほうは美しい浅緑色を示していた。みごとな虹が立ってその下の海面が強く黄色に光って見えた。右舷の島の上には大きな竜巻の雲のようなものがたれ下がっていた。ミラージュも見えた。すべてのものに強い強い熱国の光彩が輝いているのであ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・老衰して黒っぽくなりその上に煤煙によごれた古葉のかたまり合った樹冠の中から、浅緑色の新生の灯が点々としてともっているのである。よく見ると、場所によってこの新芽のよく出そろったところもあり、また別の町ではあまり目立たないところもある。さらにま・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・「とこしへに民安かれと祈るなる吾代を守れ伊勢の大神」。その誠は天に逼るというべきもの。「取る棹の心長くも漕ぎ寄せん蘆間小舟さはりありとも」。国家の元首として、堅実の向上心は、三十一文字に看取される。「浅緑り澄みわたりたる大空の広きをおのが心・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫