・・・この間に桜の散っていること、鶺鴒の屋根へ来ること、射的に七円五十銭使ったこと、田舎芸者のこと、安来節芝居に驚いたこと、蕨狩りに行ったこと、消防の演習を見たこと、蟇口を落したことなどを記せる十数行それから次手に小説じみた事実談を一つ報告しまし・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・粂の仙人を倒だ、その白さったら、と消防夫らしい若い奴は怪しからん事を。――そこへ、両手で空を掴んで煙を掻分けるように、火事じゃ、と駆つけた居士が、(やあ、お谷、軒をそれ火が嘗と太鼓ぬけに上って、二階へ出て、縁に倒れたのを、――その時やっと女・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・――ああ太鼓が聞える。……この太鼓は、棒にて荷いつりかけたるを、左右より、二人して両面をかわるがわる打つ音なり、ドーン、ドーンドーン、ドーンと幽に響く。人形使 笙篳篥が、紋着袴だ。――消防夫が揃って警護で、お稚児がついての。・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・もう、だいぶ暑いころで、少年は、汗だくで捜し廻り、とうとう或る店の主人から、それは、うちにはございませぬが、横丁まがると消防のもの専門の家がありますから、そこへ行ってお聞きになると、ひょっとしたら、わかるかも知れません、といいこと教えられ、・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・それが友だちと二人で悪漢の銀行破りの現場に虜になって後ろ手に縛られていながら、巧みにナイフを使って火災報知器の導線を短絡させて消防隊を呼び寄せるが、火の手が見えないのでせっかく来た消防が引き上げてしまう。それでもう一ぺん同じように警報を発し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・今度の火災については消防方面の当局者はもちろん、建築家、百貨店経営者等直接利害を感ずる人々の側ではすぐに徹底的の調査研究に着手して取りあえず災害予防方法を講究しておられるようであるが、何よりもいちばんだいじと思われる市民の火災訓練のほうがい・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・も充分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制のもとに、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に従って消火に従事することができれば、たとえ水道は止まってしまっても破壊消防の方法によって確実に延焼を防ぎ止める・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・しも十分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制の下に、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に従って消火に従事することが出来れば、たとえ水道は止まってしまっても破壊消防の方法によって確実に延焼を防ぎ止める・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・当時江戸の消防機関は長い間の苦い経験で教育され訓練されてかなりに発達してはいたであろうが、ともかくも日本にまだ科学と名のつくもののなかった昔の災害であったのである。 関東震災に踵を次いで起こった大正十二年九月一日から三日にわたる大火災は・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・たとえ高圧水道が出来ていようが、消防船が幾台出来ていようが、おそらくそんなものは何にもなるまい。それが役に立つくらいなら、今度だって、何かあったはずである。 もし百年の後のためを考えるなら、去年くらいの地震が、三年か五年に一度ぐらいあっ・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
出典:青空文庫