・・・従令文学などの嗜みなしとするも、茶の湯の如きは深くも浅くも楽むことが出来るのである、最も生活と近接して居って最も家族的であって、然も清閑高雅、所有方面の精神的修養に資せられるべきは言うを待たない、西洋などから頻りと新らしき家庭遊技などを・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・切詰めた予算だけしか有しておらぬことであるから、当人は人一倍困悶したが、どうも病気には勝てぬことであるから、暫く学事を抛擲して心身の保養に力めるが宜いとの勧告に従って、そこで山水清閑の地に活気の充ちた天地の気を吸うべく東京の塵埃を背後にした・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・ 三十日、清閑独り書を読む。 三十一日、微雨、いよいよ読書に妙なり。 九月一日、館主と共に近き海岸に到りて鰮魚を漁する態を観る。海浜に浜小屋というもの、東京の長家めきて一列に建てられたるを初めて見たり。 二日、無事。 三・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・浅草へ行く積りであったがせっかく根岸で味おうた清閑の情を軽業の太鼓御賽銭の音に汚すが厭になったから山下まで来ると急いで鉄道馬車に飛乗って京橋まで窮屈な目にあって、向うに坐った金縁眼鏡隣に坐った禿頭の行商と欠伸の掛け合いで帰って来たら大通りの・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
出典:青空文庫