・・・ 悌が最も素直に一同の希望を代表して叫び、彼等は喜色満面で食卓についた。ところが、変な顔をして、ふき子が、「これ――海老?」といい出した。「違うよ、こんな海老あるもんか」「海老じゃないぞ」「何だい」 口々の不平を・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・皆おいしがったから、さだ嬉しがって満面ニコニコなり。 平八郎の絵、朝顔がよかった帝展には大体興味なし。けれどもこの間契月、未醒、清方、霊華などの合評を読んだら、フム、と感じるところもあった。 Sさんが帰ると、Y、急に九品仏に行こうと・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・しかし、その大看板が車よせの庇の上で、うららかな冬日を満面にうけているところは、粗野だが真情のある大きな髭男がよろこび笑っているような印象を与えた。通りから見あげて、ひとりでに口元がくずれ、昔の女が笑いをころすときしたようにひろ子は、元禄袖・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・二人の看護婦が笑いながら現われると、満面に朝日を受けて輝やいている花壇の中へ降りていった。彼女たちの白い着物は真赤な雛罌粟の中へ蹲み込んだ。と、間もなく、転げるような赤い笑顔が花の中から起って来た。 彼の横で寝ていた若い女の患者も笑い出・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫