・・・ たとえば橋本正一氏がいっているように、自身の創作の実際にあたって、作家は、他の作家によってかかれたある作品の構成「漸次に発展するところの場面に対する小説的な興味」又は作品に感銘ふかい効果を引きおこす為に大切な「絵画的な細部描写」などを・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そうしてかくのごとき気分と思想とが漸次近代偶像破壊者の模倣に堕して行ったことには、ついに思い及ぶところがなかった。 予は当時を追想して烈しい羞恥を覚える。しかし必ずしも悔いはしない。浅薄ではあっても、とにかく予としては必然の道であった。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・ 彼に関する研究は、一八七九年に出たブランデスの論文が最も早いものの一つで、その後漸次多くなり、今世紀に入ってからは著しく盛んになっている。一九〇九年までには単行本が六冊、その後一九一三年までには単行本が十冊、雑誌の論文が十篇に達してい・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
一 我々は創作者として活らく時、その創作の心理を観察するだけの余裕を持たない。我々はただ創作衝動を感ずる。内心に萌え出たある形象が漸次醗酵し成長して行くことを感ずる。そうして我々はハッキリつかみ、明確に表現しようと努力する。そこ・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・その後の諸作は漸次問題が内に深まって行く経路を示している。そうして最後の『明暗』に至って憤怒はほとんど憐愍に近づき、同情はほとんど全人間に平等に行きわたろうとしている。顧みてこの十三年の開展を思うとき、先生もはるかな道を歩いて来たものだと思・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・そして漸次に息をしながら死んで行く。何ものも人格に痕を残さない。人格は一歩も成長しない。腐敗がいつのまにか核実にまで及んでいる。六 製作の苦しみは直ちに生の苦しみであるとは言えない。製作の苦しみが人格の苦しみに根を持つ時、初・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫