・・・ 何物を以ても抗し得ぬ時代の潮に今日も明日もとただよいながら、しばしば私に迫り、ややもすれば私の四肢を、心臓をまひさせ様とした力強い潮流の一つを見出した。 深い紺碧をたたえてとうとうとはて知らず流れ行く其の潮は、水底の数知れぬ小石の・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・宮崎県では、大事な名所の一つとしているのだろうが、島中に青島神社を祭ったぎり、その特徴ある島の成因について、科学的な説明を与えた印刷物などはどこにも売っていない。潮流の工合で、南洋からそういう植物をのせたまま浮島が漂って来て、大仕掛の山葵卸・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ ところでお読みになる本について、私ははっきりしたお手紙を見るまで自分の考えで入れるしかないのですが、文学に関する本では少し古典と現代の諸潮流の作品とを系統たてて読んで御覧になりませんか。あなたが三日にまだプランをもっていらっしゃらなか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・政治と文化とを一貫して、世相を押しきったこのような潮流は、一九四九年度の毎日文化賞の準備調査、読売新聞社の良書ベスト・テンの調査などで、諸々批判のおこっている永井ものがトップをしめ、「宮本武蔵」や「親鸞」「風とともに去りぬ」「細雪」「流れる・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・小林多喜二は、前年春から、不自由な生活を余儀なくされて暮しながら、文学者として可能な限り当時のこの腐敗的潮流と闘った。その間に「党生活者」その他の、日本民主文学の歴史的所産たる作品を生み出したのであった。 当時、一部の文化人と云われる人・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ それにひきつづく略十年間、一九三三年頃まで文学の主潮はプロレタリア文学にあり、日本の歴史のふくむ複雑な数多の原因によってこの潮流の方向が変えられると共に、文学は、その背景である社会一般の生活感情にあらわれた一種の混迷とともに画期的な沈・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・たといそれが、世界的潮流に乗っている洋画家の努力から見て、時代錯誤の印象を与えずにはいない程度のものであるにしても、とにかく現代人の要求を充たすに足りる新生面の開拓の努力は喜ぶべきことである。 しかしこの十年来の革新の努力がどういう結果・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・この事実は世界の精神潮流から非常に遅れていた最近のわが国の文化についても、厳密に検察せられなくてはならない。―― そこで生活の「真実」、人間の「自然」の問題である。我々はこの「真実」、「自然」を描くと自称する多くの作家を持っている。しか・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・そうしてそれは我々日本人が世界的潮流に遅れないために不断に努力すべき所である。 ヨーロッパ人は今異常に苦しんでいる。日本人はその苦しみを自分の身に分かつ代わりにむしろ嬉しそうにおもしろそうにながめている。他人の不幸を喜ぶのである。しかし・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・ただ願わくばこの悪潮流が光栄ある四綱領を汚さざらん事を望むのである。 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫