・・・働いたのは島の海女で、激浪のなかを潜っては屍体を引き揚げ、大きな焚火を焚いてそばで冷え凍えた水兵の身体を自分らの肌で温めたのだ。大部分の水兵は溺死した。その溺死体の爪は残酷なことにはみな剥がれていたという。 それは岩へ掻きついては波に持・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・その時刻の激浪に形骸の翻弄を委ねたまま、K君の魂は月へ月へ、飛翔し去ったのであります。 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・ 作家が現実の激浪に圧倒されて、或る混乱に陥ったと云われているのは既にこの数年来のことである。その原因は決して簡単でないが、主な一つは、文学の前時代の骨格であった個人的な自我が、内外の事情から崩壊したのに、正常な展開の可能が自他の条件に・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
出典:青空文庫