・・・ 井戸に、瀬戸ものをつるしまでし。なかなか十五六の男の子としては大出来の功績をあげた。 二日 事ム所まで行って見ると、三崎町辺、呉服橋ぎわ、その他に人間の死体がつみかさね、やけのこりのトタン板をかぶせてある。なるたけ見ないように・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 鶏にやる瀬戸物を砕いた石ころが「ホウサンマツ」を散(きらした様にキラキラした中にゴロンとだらしなくころがって居る。 梁にある鶏の巣へ丸木の枝を「なわ」でまとめた楷子が壁際に吊ってあってその細かく出た枝々には抜羽だの糞だのが白く、黄・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・食物の空瀬戸茶碗がころがっている。樫の枯葉が背中にはりつく。人さえ通ると、ああこれは冷たい、居心地わるい、悲しい、犬でも悲しい。と訴えるように、人間じみた斑の顔を動かして吠える――遠吠えの短いのをする。鎖を鳴しつつ、危い屋根の上で脚を踏みか・・・ 宮本百合子 「吠える」
出典:青空文庫