・・・革命博物館には、種々様々の革命的文献の他に帝政時代、政治犯が幽閉されていた城塞牢獄の監房の模型が、当時つかわれた拷問道具、手枷足枷などをつかって出来ている。茶っぽい粗布の獄衣を着せられた活人形がその中で、獣のような抑圧と闘いながら読書してい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・もしわれわれが本当に人間として基本的なものだけは守り通すという決意をもち、それが実践のためには牢獄と死をさえ辞せないだけの強い意志だけあれば、必ず我々はこのようなお調子にのった今日の右翼攻勢を粉砕しうる時はくる。」しかし、「戦術的には従来の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
逃げて行く子供達と、そしてそれをとりまく環境と両方に問題があると思います。裸にしておけば逃げないという考え方は、死なないように牢獄内の囚人に帯をさせないという事と同じ事です。このことをつきつめたら喰わせずにおいて足腰たたな・・・ 宮本百合子 「これでは囚人扱い」
・・・「格子なき牢獄」という映画にはリュシェールという若い女優の美しさばかりでなく私たちの心をうつものがあった。そして、それよりもっと生のままの身近い現実として、今日の私たちの周囲には少年犯罪の増加の事実が世人の注意をひいているのである。・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・そして百余日にわたる牢獄生活、これを通じまして天野検事がその時にもらされました一ツの嘆声が実はこの三鷹事件の本質であったということを感じてきたのであります。」「それでは吉田政府の枠とは何だ、私は労働者であり、日本共産党員であります。われわれ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・と看守がいうような牢獄生活をつづけて来た人々。そういう不幸な痕跡をもった人々がきょうの情勢を主観的にせきたって判断すれば、病気だといっても、何だその位という気風もおこるだろう。外へも出られないというのが本当ならどうして小説が書けている、と特・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・奴に魅入られた欲心に後押しされて他人のものをことわりなしに我家に持ちかえった事をとがめられて、厳な司法官の宣告書にふるえの止まらぬ体をそのままただ一坪の四方は皆叩いても音の出ぬ石のただ一つ小窓の開いた牢獄につながれた時の罪人の、故里に待つ親・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・口許を力ませるような表情で、濃い睫毛を伏せ、針を運んでいる重吉のうしろに、ひろ子はまざまざと牢獄の高い小さい窓を見た。そこに鉄格子がはまっていて、雲しか見えず、オホーツク海をわたって吹く風の音しかきこえない高窓を見た。その下に体の大きい重吉・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ ネフリュードフに悪態をつくところ、牢獄でウォツカをあおって売笑婦の自棄の姿を示すとき、山口淑子は、体の線も大きくなげ出して、所謂ヴァンパイアの型を演じる。けれども、最後の場面で、政治犯でシベリアに流刑される人々にまじったカチューシャが・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・かくして朝寝に耽り学校を牢獄と見る。「自己」を救うために学校を飛び出す。友は騒ぎ母は泣く。保証人はまっかになって怒鳴る。 生命の執着はまた人生に大変調を来たす。恋の怨みに世を去り、悲痛なる反抗心に死する人が世に遺す凄き呪い。一念の凝った・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫