・・・少数の職業組合が旧教の牧師の下に立って単調な生活をしていた昔をそのままに見せるこう云う町は、パリイにはこの辺を除けては残っていない。指定せられた十八番地の前に立って見れば、宛然たる田舎家である。この家なら、そっくりこのままイソダンに立ってい・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・その人は白髯でやはり牧師らしい黒い服装をしていましたが壇に昇って重い調子で答えたのでした。「只今の御質疑に答えたいと存じます。 植物性の脂肪や蛋白質の消化があまりよくないことは明かであります。さればといって甚不良なのではなく、ただ動・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・わたくしはあすアフリカへ行く牧師の娘でございます。」 少女は、ふだんの透きとおる声もどこかへ行って、しわがれた声を風に半分とられながら叫ぶ。 マリヴロンは、うっとり西の碧いそらをながめていた大きな碧い瞳を、そっちへ向けてすばやく楽譜・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・保守的な宗教家として正統的なものの考えかたをしている老牧師の娘である女主人公が、かねて愛しあっていた青年と、彼の出征の前夜、自分たちの結婚をする。若い二人は、その異常な別れの夜に、互の愛を互のうちに与えあわずにいられない熱情につき動かされた・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ケーテの父はユリウス・ループといって、ドイツにおける最初の自由宗教の牧師であった。知られているとおり、ウィルヘルム二世はビスマークの扶けをもって、正義と皇帝の絶対権とを結びつけて人民にのぞんだが、十九世紀前半のその頃の欧州は近代社会の経済事・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・P牧師も、きっと彼女の良人になる人だろうと思われるほど、彼女を崇拝した。しかし三年たってP牧師が休暇帰国して来たときには、快活な牧師夫人を伴っていた。やがて、時が経つうちに、次々と新しく若い女教師も来るようになり、C女史は小さなとある胡同の・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 父親は、ケムブリッジ大学を卒業し、ひとから未来を属望され、自分も大いに活動する気でいたところが、彼の盲滅法な性質から、深い考えもなく或る私塾を開いている牧師の娘と恋に落ち、結婚したまま有耶無耶に六年間舅の助手で過してしまいました。舅の・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・をつけて呼んだバルザックが政治的に正統王朝派であったことは、同じバルザックが「牧師」の中でマルクスの心を打ったほど鋭く現実の資本主義商業の成り立ちを喝破していることと撞着するものでないというのが、バルザックの花車を押し出した一部のプロレタリ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・現代反動政府とそれを支配しているブルジョアとは、あらゆる機会に坊さん、いわゆる道徳家牧師を動員して世界経済恐慌によって起るプロレタリアの攻勢を何とかして胡麻化そうと、かかっているのです。反宗教運動は、プロレタリア文化運動の一翼として、当然起・・・ 宮本百合子 「反宗教運動とは?」
・・・もはや往年の貧しい牧師の息子にとって権力者たちは「彼等」ではなくなった。そしてルースはイェール大学の最も富裕な最も業々しくて反動的な「髑髏と骨」団の団員になった。 かくて、ルースが最初出発した、「正直な報道」の与え手としてのジャーナリス・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
出典:青空文庫