・・・らずも次第にこの道より遠ざかり、父祖伝来の茶道具をも、ぽつりぽつりと売払い、いまは全く茶道と絶縁の浅ましき境涯と相成申候ところ、近来すこしく深き所感も有之候まま、まことに数十年振りにて、ひそかに茶道の独習を試み、いささかこの道の妙訣を感得仕・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・それから十年の後高等学校在学中に熊本の通町の古本屋で仏語読本に鉛筆ですきまなしにかなの書き入れをしたのを見つけて来て独習をはじめた。抑圧された願望がめざめたのである。子供に勉強させるには片端から読み物に干渉して良書をなるべく見せないようにす・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・もっともだれに教わるのでもなく全くの独習で、ただ教則本のようなものを相手にして、ともかくも音を出すまねをしていたに過ぎなかった。適当な教師があれば教わりたかったが、そういう方面に少しの縁故ももたなかったし、またあったにしてもめったな人からは・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・絵画の方でも一つの例として独習者画家団と云うのがあるが、主として職場の若い男女だ。毎年一度か、二度、展覧会を開く。絵の方は演劇、文学に較べるとずっと発達が遅れている。文学に於ける有望な新しい作家が勤労大衆の中から出て来るようには若い画家が出・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・ 独習者である自分に対しては学生達が「かなり厳格な態度」をとる。このことが、ゴーリキイにいまいましい思いを幾度かさせるが、彼等の言葉の一つ一つを裏付けている「人類愛」の感情は、ゴーリキイの心に全く新たな一面を開発する力をもっていた。人間・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 独習者の新鮮、真面目な努力で、どんなに若いゴーリキイが、この科学の克服に熱中したかということは想像される。そして、このむずかしい仕事の中でも手に負えないのが、ゴーリキイにとっては文法であったというのは面白い。彼は、幾分極りわるげに、し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫