・・・』『ナニあの男の事だからいったんかせぎに出たからにはいくらかまとまった金を握るまでは帰るまい、堅い珍しい男だからどうか死なしたくないものだ。』『ほんとにね』とお絹は口の中、叔母は大きな声で『大丈夫、それにあの人は大酒を飲むの何の・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・ 二 この日は近ごろ珍しいいい天気であったが、次の日は梅雨前のこととて、朝から空模様怪しく、午後はじめじめ降りだした。普通の人ならせっかくの日曜をめちゃめちゃにしてしまったと不平を並べるところだが、時田先生、全く・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・「人を殺すんがなに珍しいんだ! 俺等は、二年間×××の方法を教えこまれて、人を殺しにやって来てるんじゃないか!」 反感をなお強めながら、彼は、小屋の床をドシンドシン踏みならした。剣をつけた銃を振りまわした拍子に、テーブルの上の置ラン・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ さて、きょうは珍しい報告を送る思いでこのおたよりいたします。ことしの夏の初めあたりから、とうさんは自分の生活を変えようと思い立ったからです。 今までのとうさんの生活が変則で、多少不自然であることは自分でも知っていましたが、おまえた・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・「青木君、洋服は珍しいね」と相川は笑いながら、「むう、仲々好く似合う」「青木君は――」と布施は引取って、「洋服を着たら若くなったという評判です」「どうも到る処でひやかされるなあ」と青木は五分刈の頭を撫でた。「時に、会の方はど・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・葡萄酒のブランデーとかいう珍しい飲物をチビチビやって、そうして酒癖もよくないようで、お酌の女をずいぶんしつこく罵るのでした。 「お前の顔は、どう見たって狐以外のものではないんだ。よく覚えて置くがええぞ。ケツネのつらは、口がとがって髭があ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・ おとといの夜、ほんとうに珍しい人ばかり三人、遊びに来てくれることになって、私は、その三日ばかり前から落ちつかなかった。台所にお酒が二升あった。これは、よそからいただいたもので、私は、その処置について思案していた矢先に、Y君から、十一月・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ 何も人間が通るのに、評判を立てるほどのこともないのだが、淋しい田舎で人珍しいのと、それにこの男の姿がいかにも特色があって、そして鶩の歩くような変てこな形をするので、なんともいえぬ不調和――その不調和が路傍の人々の閑な眼を惹くもととなっ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・たとえば池のみぎわから水面におおいかぶさるように茂った見知らぬ木のあることは知っていたが、それに去年は見なかった珍しい十字形の白い花が咲いている。それが日比谷公園の一角に、英国より寄贈されたものだという説明の札をつけて植えてある「花水木」と・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・今までにずいぶん色々な山も見て来たが、この日この時に見た焼岳のような美しく珍しい色彩をもった山を見るのは全く初めてであるという気がした。 音に聞く大正池の眺めは思いのほかに殺風景に思われた。しかし池畔からホテルへのドライヴウェーは、亭々・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
出典:青空文庫