・・・前の犬には生別れをしたが、今度の犬には死別れをした。所詮犬は飼えないのが、持って生まれた因縁かも知れない。――そんな事がただ彼女の心へ、絶望的な静かさをのしかからせたばかりだった。 お蓮はそこへ坐ったなり、茫然と犬の屍骸を眺めた。それか・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・おなじ写真を並んで取っても、大勢の中だと、いつとなく、生別れ、死別れ、年が経つと、それっきりになる事もあるからね。」 辻町は向直っていったのである。「蟹は甲らに似せて穴を掘る……も可訝いかな。おなじ穴の狸……飛んでもない。一升入の瓢・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 蝉吟公が没して、当時二十三四歳であった宗房は「雲と隔つ友かや雁の生別れ」という句を親友に残して上野町から京大阪へ出奔した。原因は何であったろう。いろいろのことが云われているらしい。例えばその時代の武士社会のしきたりに触れる女のひととの・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫